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夢工房 『浩』~☆”

夢工房 『浩』~☆”

サイ(超能力学級) 3

青葉台中学校2年A組は雷の話で盛り上がっていた。

「朝、6時までごろごろ鳴ってたし――――、」

「そうそう―――、」

「え―――っ!ぜんぜーん、爆睡かも~、」

「なんか――、

興奮して朝の読書タイムどころじゃないや~、」

一時限目までの10分、

いつもなら静かなクラスも賑やかだった。

(渡辺~、俺らっていつから雨男になったぁ~?)

(俺らっていうな――、飯田――、

今朝の雨は県内にふってたんだ、)

(それにしても今朝の雷観測はびびった―――、)

(そうだな――、

放電の際に起こる荷電粒子の加速度現象―――、

すごかった――、)

(加藤、意味わかんね―から、)


(私、なにか見えたかも―――、)

(なに―真理っぺ―、何が見えただよ―、)

(昨日はごめん、急に写真とっちゃって、)

(ほんと、びっくりしたよ―、)

(ううん、なんにもなくてよかったねw 清水さん――)

私ね雷の時、トイレにたったら、見えたの、)

(何が?)

(窓から、雷の光の度にUFOとか、

歩く人とか見えたの、)

(ごめん、真理っペ―、私のせいで―、)

と、清水は望月のおでこを診る。

(私の熱をはかってどうすんだよ――!)

(wwww―――、)

と、瞳で笑う3人。



(ほんと、

近くにどどーんと落ちた時は火柱が赤く見えたっけ――、)

(男子はたいへんだね、雷のたんびに観測だものね―w)

(いや、昨日はもっと、たいへんだった―、

職員室がみずびたし―、)

(飯田!)渡辺の視線が走った。

(になるくらい、おそうじ手伝ったね~汗)

(もうとっくにわかっちゃってるから――、)

(これだもん、テレパシーって厄介な事もあるよな―、)

(あのあと、沢村も来て一緒に掃除してったんだよ、

机のパソも濡れちゃったし、書類もほとんど、)

(でも、お咎めなかったんでしょ、)

(それが唯一の救いかな―、)

(人の意識に入りこむ、

そのエネルギーって一体なんなの?)

(それ自体が一種の意識なんじゃないかな?)

(良い事とか悪い事って本来、

宇宙の科学にはない物差しでしょ?

そう思い込んでるしている人々の

思いの結合かもしれないし――、)

(そっか――?)

(でも、地球自体が生命体であるって考えではどうなの?)

(物差しは地球基準ってが――、)

(環境にいいガソリンをつかいましょう~ww)

(おまえは環境にいいおならを出せ――!)

(wwwww―――、)

チャイムが鳴った。



青木は小さい頃、

テレビで見たイルカの兄弟を思い出していた。

(たいへんなんだ、海がたいへんなんだ!)

一生懸命人間に伝えようとしているのに、

回りの大人は分からないでいる。

しかし、赤ちゃん語しか話せなかった青木には

なすすべもなかった。

水族館から逃げ出したというイルカだと後々聞いたのだが、

それ以来近所の犬や猫の会話が時々聞こえてくる。

でも今朝は皆静まり返っていて、

相当怖かったんだ。

(海がたいへんって、イルカは何を伝えたかったのか―、

あ、

そうだ、

昨日の稲光で見えたあれはいったいなんだったろう?

円盤のようなもの、そしてゆらゆら動いている人、人?

あ、また意識が飛びそう―――、)

遠くへ行くなよ~



悠久の母なる海の底は果てしなく

紺色の狭間に深海生物が浮遊し

その底をうごめいている

まるで地球の中に一つの宇宙があるように

その触覚を未知なる物に触れるように

真理が見たものは

陰陽のそれにも似て儚くももあり

生命の根源のようでもあった―――

青木真理はイルカになっていた。

そして巨大な岩のように存在するその塊は、

中から叫んでいるようにも思えた。

慎重にイルカに意識を重ねて、

それを見ていると、

大きな鉄の塊は、

心臓を持って胎動している、

悪魔の赤ん坊にも感じられた。

その中には地球の生命も左右する邪悪なものが、

潜むというのか。


しかし様子がおかしい。

生命反応がない。

その間にも邪悪な波動は容赦なく、

付近のありとあらゆる生物に、

恐怖と気だるさを放射している。

その波動を真理も受けていたのだ。

陸上の千春や香澄に気を送っていた、

すこしは気が紛れるとも思った。

(千春!香澄!真理だけど今、海の底にいるの!)

日曜日の昼下がり千春と香澄はそれぞれの休みだった。

千春は友達とミスドでたむろっていて、

香澄は騒音の中の静けさといった趣でゲーセンで

バーチャルクエストに夢中だった。

突然の送信に二人は何が起きているか分からないでいる。

携帯の着信が鳴るわけでなく、

それは突然に脳裏に入ってくるのだから。


(真理!海の底ってあんたー!泳げたの?)

この場において適切な質問ではないが、

気が動転してそんな言葉しか思い出せない二人。

落ち着いた千春と香澄は真理から、

その波動つきイメージを送られる。

(うっ、なに、

コーラのぬるま湯にたっぷりとつかったような、

この気分、チョーきもいじゃん!)

事実、吐き気をもよおす気だるさや恐怖感が付いて来た。

まもなく加藤から千春の携帯に電話があった。

「なにか悪い予感がしてテレビをつけたら、

原子力潜水艦の事故らしい。」

「加藤君!そこに真理が行ってるの!」

「?!」

「正確にはイルカになってその界隈にいるのよー!」

「とにかく、真理だけじゃなく、日本中危険だよ、なんとかしないと!」

「そんな粗大ゴミみたいなのは作った国に返しましょうよ、やだよ何かあっ

たら―」

原水爆の恐ろしさ放射能のこわさは学校で勉強していた。

被爆体験の人が描いた絵も毎年のように見ていた。


冷静に加藤は言った。

「待って、僕らだけの力ではどうしようもない。

沢村先生に頼んでみよう。」

連絡を受け取った沢村は外国籍の潜水艦と察しがついた。

海上自衛隊に連絡すると

やはりレーダーに移っていたとの事。

国籍不明の潜水艦をP3Cもチェックしていた。

スクリュウ音でやはり中国だという事が判明した。

10数年前にもあったからだ。

しかし、今回の事故は並大抵ではないと感じていた。

放射能漏れが起きるほどの事故なのか?

恐怖と不安が錯綜し、

原爆の爆風にさらされている広島、長崎の犠牲者が

ふっとイメージに映し出された。

海底でもし事が起きたら海嶺火山帯にも影響が出る。

これ以上の地獄はない、

きっと白隠禅師が幼少のころ見た地獄は

広島・長崎の予知夢のようなものだったのかもしれないと、

へんな確信も出てきた。

早急な対応が沢村を通して各人に伝えられた。

潜水艦に誰も生存していないとすれば、

外から動かすしかなかった。

念力を送って潜水艦から一滴のバラストも、

排水させないようにすること、

そして潜水艦を中国側に念動力で返すことだった。

海に底の意識の真理にはイルカの念を集めさせた。

これにより安全航路で返せると判断した。

そして国内はもとより海外の超能力者にもテレパシーを

おくった。

各自の念を集めて、

潜水艦を保護するシールドにするためだった。

間断なき祈りのような思いでそれぞれは作業をおこなった。

それは慎重に行われ、

外から見ただけでは何も異常も感じられないほどだった。

そうして3日後、原子力潜水艦は帰港させることが出来たのだった。

恐怖の発信源がなくなり静かな海底が戻った。

そして母なる海に平和が訪れたのだった。

その海底のゆらめく水流の中、

楽しそうに泳ぐイルカの群れがあった。

シルバーカラーのその子達にお礼を言って

真理は自分にもどっていく。


あるさわやかな秋晴れの日、

沢村が加藤、渡辺、飯田、千春、香澄を連れて

自宅で静養している真理に会いに来た。

「まりー!はやく元気になろうぜー!

回転寿司でまぐろや、ちゅうとろ買ってきたからー」

と千春、香澄。

それを見て、

思い出したようにゲッと

吐きそうになる真理。

(やばい、お見舞いの品を間違えたー)と皆思った。



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